〜日本文化のルネッサンスをめざす〜日本酒で乾杯推進会議
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100人委員会コラム
本間千枝子氏本間千枝子(ほんま ちえこ)氏
1933年東京生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学仏文科、ニューヨーク市立大学に学ぶ。通算7年の滞在生活。1982年『アメリカの食卓』にてサントリー学芸賞受賞。主な著書に『父のいる食卓』『バッカスが呼んでいる』『女の酒の物語』等がある。元三鷹市教育委員長、「日本人のこころを考える会」世話人代表、現在東京きじ酒の会会長。愛媛県鬼北町「食の大使」など。生活文化を中心に人間形成のあり方を探求している。

時空を越えた乾杯
 

 昨年六月、友人の家の結婚式に招かれてアメリカ東部を訪ねた。結婚するのは、むかし私たち夫婦がお世話になったじいちゃんばあちゃんの孫息子で、じいちゃんは五年前に他界している。

 一家は長年にわたり日本との縁が深い人たちなので、お祝いの品には迷うことなく夫婦盃と日本酒一瓶を持って行った。
夫婦盃は茶碗とちがい、探すのが大変だった。あきらめかけてた時に、何と日本の慶事を象徴するような一対が私の目にとび込んできた。黒と朱の漆器にガラス加工を施し華麗に仕上げたぐい呑みだった。それぞれ松と竹の柄が描かれている。即座に私はそれを求め梅形の小皿を加えてセットにしてもらった。結婚式は前夜祭、本番、翌日の朝食会と三日がかりだった。パーティーのどこかで日本酒のサービスを組み込んでもらい、日本から来た客として乾杯!、ほろ酔いスピーチをすればよかったと思ったが後の祭り、唇を噛んだ。

 翌朝さよならを言う時、私は新郎新婦に念を押した。「すべてが終わって落ちついたら、二人でしみじみとお祝いの『サケ』を楽しんでね。何かきっとうれしいことがあるわよ!」
 帰りに寄ったニューヨークで、かつてのテレビ番組「料理の鉄人」で大活躍したモリモトに招かれ、彼の新しい店に行った。日本酒が今まさにホットな人気を集めている様子を身をもって知った。モリモトによれば、まだまだ甘口の酒の方が受けているそうだが、アメリカの人びとをさらなる日本酒党、辛口好みに変えたり、ファンを増やすことができる、と、わが年齢を忘れつつ私は熱心に考えた。

 「酒なくして何の人生」とくり返す二人の父と、夫のために丹精を籠めて数知れぬ酒の肴づくりに励んだ母二人の間で成長した私は、いつの間にか限りもなく肴ばかり作る酒呑み女になってしまった。夜な夜な父たちと同じセリフを心の中でつぶやきつつ、時空を越えてわが愛しき人々と乾杯を交わしている。

 
 
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