〜日本文化のルネッサンスをめざす〜日本酒で乾杯推進会議
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100人委員会コラム
本間千枝子氏本間千枝子(ほんま ちえこ)氏
1933年東京生まれ。エッセイスト。早稲田大学仏文科、ニューヨーク市立大学に学ぶ。通算7年の滞米生活。1982年『アメリカの食卓』にてサントリー学芸賞受賞。主な著書に『父のいる食卓』『女の酒の物語』『誇り高き老女たちの食卓』等がある。元三鷹市教育委員長。現在NPO「海のくに・日本」副理事長。東京きじ酒の会会長。愛媛県鬼北町「食の大使」など。近刊著に『セピア色の昭和・記憶の断章』がある。

雉酒・未来に役立つ豊かな過去
 

 昨年秋、喜寿を迎えた私の身辺はこのところ俄かに多事になった。一月末には高知の食文化の会に行った。スピーチを考えている時、長年の友人(元農水省のお役人)からFAXが届いた。最近の政府観光局のアンケート調査では、外国人の日本観光の目的は「日本の食事」と答える人が約59%、日本の飲食は外国人観光客を呼ぶ大きな売りであるという。
「食の県高知」でのスピーチの結びは当然この話になり、大きく盛り上がった。
  二月末には企業の管理職の方々が集まるセミナーの同窓会に招かれて倉敷まで行った。私の役は夕食会でのお話。それも「雉と雉酒について」、それらを実際に楽しみながらという企画だった。近著の『誇り高き老女たちの食卓』を読んで下さった方が「雉は十字軍の勝鳥そいつを日本酒で」という章の雉に誘惑されたのだと思う。
  実は四万十川源流沿いの町、愛媛県鬼北町では十余年前から雉を養殖しており、私も縁あってこの町の「食の大使」となっている。
 幼ない頃に雉の笹身を炙り焼いて熱めの燗酒に浸した「雉酒」なるものを、父親から「お前も呑めてみるか?」といわれ、その時の味わいを何十年も忘れずにいた私は奇妙な女だ。父親のせいで相当な酒呑みとなった私は、故佐々木久子さんにその道の後輩として大層なご贔屓にあずかった。
  さて日本の国鳥である雉は、日本でも西欧でも勝鳥、しかも極めつきの美味な鳥であり、高貴な身分とされているが、料理法は極めて難しい。鬼北町の雉の熟成や急速冷凍それに食品の味わいの技術面では、私の長年の隣人にして友人の三嶋洋君が全力をあげて盡しており、さらに現代的に雉酒を造れる「雉酒エキス」も完成させて特許が下りたのだった。
  実は、この「雉酒エキス」を使って、ボトル入りの雉酒をぜひ製品化して下さいと、愛媛県のU酒造のY社長にお願いしたのは、何と初対面の私だった。
  佐々木久子さんの追悼会の席で偶然お隣りに坐られたY氏を山本祥一朗氏が私に紹介して下さると、私の背後に急に佐々木久子さんが現れ、背中をとん!と一突き。私はたちまち雉の話を始めていた。それから一年、Y社長はさまざまな困難をクリアされて雉酒発売に漕ぎつけて下さった。
  倉敷では友人三嶋君の雉酒と料理は大好評となり、出席者全員が日本のために「未来に役立つ豊かな過去」を飲食文化でも心して見出そうということでお開きになった。

 
 
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