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折茂肇氏折茂肇(おりも はじめ)氏
老年学者。1935年生まれ。東京大学医学部老年病学元教授。東京都老人医療センター(現東京都健康長寿医療センター))名誉院長。公益財団法人骨粗鬆症財団理事長。国際骨粗鬆症財団(IOF)理事。医療法人財団健康院 理事長。医療法人財団健康院 健康院クリニック院長。

がんはいずれ「理想の死に方」になる
 

どうやって老後を送るか。わが国が抱える深刻な問題だ。
2013年の年末、英国医学誌(BMJ)の元編集長であるリチャード・スミス氏の「癌で死ぬのが最高の死に方」という論文が発表され、議論を呼んだ。
スミス氏は自殺を除く死に方を、突然死、癌死、認知症死、臓器不全死の四つに分け、その優劣を考察した。
彼が最悪の死に方と断じたのは「認知症を抱えながら、長い時間をかけて、ゆっくり死ぬ」ことだ。家族や友人のこともわからなくなり、便や尿を垂れ流しながら、生きながらえることを望む人はいないだろう。
特にこの傾向は欧米で強い。なぜなら、米国では生きながらえるのには金がかかるからだ。
ケアのレベルは金次第だ。24時間介護つきのナーシングホームの介護施設の年間費用は平均6万ドルとされ、都市部では10万ドルを超えるところもある。
今や米国の65才以上の半分が長期的な介護が必要だと言う。介護サービスの供給が追いつかない。
認知症の特効薬や予防薬はなく、現在の研究の進行状況を考慮すれば、近い未来に認知症が克服される可能性はほぼ皆無だ。
これでは長生きするのも考え物だ。多くの米国人が「何とかして、認知症にならずに一生を終えたい」と願っている。
日米を問わず、理想の死に方をたずねられると「ピンピンコロリ」を挙げる人が多い。確かに「ピンピンコロリ」は長期間にわたり、病や治療の苦しさを味わうことがない。癌で死ぬ場合に問題となる迫り来る死の恐怖との戦いも経験せずに済む。
ただこのことが逆にデメリットにもなる。突然死んでしまうと、残された家族に対して何の準備も出来ない。さらに、「ピンピンコロリ」の原因である脳卒中や脳梗塞は、意識不明、や四肢の麻痺をおこし寝たきりになることもある。
最近、究極の認知症予防法が議論されるようになった。それは認知症を発症する前に死んでしまうことである。具体的には、癌で死ぬことだ。冒頭のスミス氏の意見は、その典型である。
米国政府は認知症、特にアルツハイマー病対策に力を入れ、巨額の予算を費やしてきた。例えば、2013年2月、オバマ大統領は「BRAINイニシャティブ」という脳研究の巨大プロジェクトを発表し、2015年度はアルツハイマー病の研究助成を目的に、国立衛生研究所に302億ドルを予算配分した。
民間でも議論は進んでいる。認知症に安楽死を認めるべきかについては、既に合法化されているオランダ、ベルギー、ルクセンブルグの状況を参考に、議論が始まっている。
スミス氏は癌で死ぬメリットを強調する。診断されてから死亡するまで数ヶ月から数年の時間的余裕があり、会うべき人に会い、遺言や遺産分けを準備する時間的余裕があるからだ。
どうやったら癌で死ねるのだろうか。
まずは余分な治療を受けないことだ。抗がん剤などの治療は強い副作用を伴い、進行癌の殆どは治癒しない。2014年5月に「抗がん剤治療は中止すべき」という趣旨の勧告がWHO(世界保健機関)のホームページに掲載された。本来ならば社会的に議論されるべきレポートであるが、日本ではあまり知られていない。なぜならホームページに掲載されたのは半日だけ。世界中のニュースサイトでトップニュースとして紹介されたものの、日本時間では夜中に掲載され、朝にはもう姿を消していたから。おそらく掲載が化学療法審議会の独断だったのであろう。内外からの反響の大きさに慌てて引っ込めたのか、真相は藪の中である。
新しい治療法として遺伝子治療、免疫治療、栄養療法などを取り入れた新しい総合医療が検討されているが混合診察の壁に阻まれてなかなか普及しないのが現状である。

 
 
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