〜日本文化のルネッサンスをめざす〜日本酒で乾杯推進会議
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100人委員会コラム
山折哲雄氏山折哲雄(やまおり てつお)氏
1931年生まれ。岩手県出身。東北大学文学部卒業。国立歴史民族博物館教授。国際日本文化研究センター教授・所長。現在、国際日本文化研究センター名誉教授。専門−宗教学。著書−『美空ひばりと日本人』、『親鸞をよむ』

ひとり酒、ふたり酒、乾杯酒
 

 「祝い船」という歌謡曲がある。「晴れの門出のはなむけに・・・」と歌いだして、「唄に踊りに 手拍子を・・・」とつづく。晴れの祝い酒が出て、にぎやかに乾杯をする。乾杯の音頭は威勢がよければよいほどよい。声も大きければ大きいほど、その場が盛りあがる。

 とはいっても、見渡してみれば「ふたり酒」という景気の悪い歌もある。こっちの方は川中美幸さんがうたっている。
「生きてゆくのが つらい日は おまえと酒があればいい・・・」
元気の出ない酒である。言葉も湿りがちになっている。乾杯、などと口にする気分にもなれないだろう。目と目を合わせるだけで、乾杯の合図にかえている。乾杯の音頭を腹中に呑みこんで、苦い酒を味わっている。そんなときどこからともなくきこえてくるのが、八代亜紀さんの「お酒はぬるめの燗がいい 肴はあぶったイカでいい 女は無口なひとがいい・・・」である。無口な女にむかって「乾杯・・・」と叫んでみてもはじまらない。そんなときは、しみじみ飲んで、おのれの心にむかって「乾杯」とつぶやいてみるほかはない。

 そういえば「おもいで酒」というのもある。小林幸子さんが昭和54年にうたってヒットさせた。「無理して飲んじゃいけないと・・・」ではじまり、「おもいで酒に酔うばかり」で終る。何とも陰々滅々として、「カンパイ」のカの字も出てきそうにない。その陰々滅々の究極がさしずめ美空ひばりさんの「悲しい酒」ということになるだろう。「ひとり酒場で飲む酒は・・・」である。ここまでくれば、乾杯の作法などほとんど抹殺されたも同然ではないか。

 日本人の酒は、いったいどうしてこうも短調志向になったのだろうと思うことがある。それがよくわからない。ともかく、この「日本酒で乾杯!」の陽気な推進運動は、こうした日本文化の伝統にたいする反逆の試みであり、異議申し立ての、景気のいい挑戦の企てなのであろう。私もそれに賛同して、その席の片隅をけがすことにした。

 
 
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